こんにちは、キリュウです。 今日は、読み終えてから数日、ずっと頭の片隅で鳴り続けている一冊について書かせてください。朝井リョウの作家生活15周年記念作『イン・ザ・メガチャーチ』(日本経済新聞出版)です。

「神がいないこの国で人を操るには、”物語”を使うのが一番いいんですよ」 「中毒症状があるほうが苦しくないのだ、人生は」

正直、読後しばらく手が動きませんでした。何か書こうとすると、自分がいま推している”界隈”のこと、SNSのタイムライン、最後に財布を開いたグッズの金額──そのすべてに小さな後ろめたさのような火が点くのです。本稿では、ネタバレを極力避けつつ、『イン・ザ・メガチャーチ』のあらすじ・テーマ・感想を、なるべく丁寧にレビューしていきます。どうぞ最後までお付き合いください。



この記事でわかること

  • 『イン・ザ・メガチャーチ』の基本情報とあらすじ(ネタバレなし)
  • 朝井リョウが今作で描こうとした”物語”と”中毒”の正体
  • 『正欲』『生殖記』との読みくらべポイント
  • どんな人に刺さる小説なのか
  • 読後に残る問い、そしてキリュウの総評

書籍情報

項目内容
タイトルイン・ザ・メガチャーチ(In The Megachurch)
著者朝井リョウ
出版社日本経済新聞出版
位置づけ作家生活15周年記念作品
キャッチコピー「2025年、最大の話題作!!」
関連作『正欲』『生殖記』

装丁はステンドグラスを思わせる意匠に、金色の放射紋。タイトルの”メガチャーチ”が宗教的モチーフと重なり、“信仰”という補助線で現代のファンダムを見ろというメッセージが、本を開く前から刺さってくる。


あらすじ(ネタバレなし)

舞台は”沈みゆく列島”──経済も人口も未来も緩やかに目減りしていく現代日本。そこで沸騰するのは、推し、推し活、ファンダム、”界隈”と呼ばれる熱の塊だ。物語は、三者三様の視点で編まれる群像劇として進行する。

  • 久保田慶彦(47):レコード会社勤務。ある”能力”を買われ、アイドルグループの運営に参画することになる、業界側の人間。
  • 武藤澄香(19):留学を志す大学生。内向的で揺れる心のなかで、一人のアイドルと出会ってしまう、ファンダムに呑まれていく側。
  • 陽川絢子(35):契約社員。舞台俳優を熱烈に応援している最中、ある報道で状況が一変する、信仰を試される側。

「物語を築く者」「のめり込む者」「のめり込んでいた者」──立ち位置の異なる三人の視界がずれながら重なるとき、”推す”という行為のきらめきと闇が、ぞっとするほど立体的に浮かび上がる。


『イン・ザ・メガチャーチ』が描く5つのテーマ

帯に並ぶ言葉──事実と解釈、連帯と暴走、成長と信仰、幸福と中毒、人生と孤独──この5つが、そのまま読後の問いとしてこちらに残る。

1. 事実と解釈:同じ出来事が、界隈ごとに別の物語になる

SNS時代、”何が起きたか”より”どう語られたか”のほうが圧倒的に強い。本作は、同じ出来事が推す側・運営側・外野で別の物語に組み替えられていく様子を、痛いくらい丁寧に描く。

2. 連帯と暴走:優しさと集団リンチは紙一重

推し仲間との”わかる”の連帯は、本当に温かい。けれど、その同じ熱量が外側に向いた瞬間、人を押し流す波にもなる。朝井リョウはどちらか一方を裁かない。ただ、その境目の細さを書く。

3. 成長と信仰:推すことは、祈ることに似ている

“推し”に自分の成長や救済を託してしまう構造は、宗教と驚くほどよく似ている。だからこそタイトルは”メガチャーチ”(巨大教会)なのだ、と読み終えて腑に落ちる。

4. 幸福と中毒:「中毒症状があるほうが、苦しくないのだ、人生は」

本作の通奏低音。幸福の形をした中毒をどこまで自分で許すのか、という問いが、中盤以降ずっと鳴り続ける。

5. 人生と孤独:呑むか、呑まれるか

“界隈”に属している間は孤独じゃない。でも、界隈そのものに自分を明け渡したとき、気づけば一人称がなくなっている。この怖さを、朝井リョウは説教臭くなく、物語の速度で体感させてくる。


朝井リョウの筆致:『正欲』『生殖記』から地続きの問い

『正欲』が”多数派という暴力”を、『生殖記』が”種としての生き物である自分”を剥がして見せたとするなら、本作『イン・ザ・メガチャーチ』は**”物語という通貨で回る経済と感情”**に切り込んでいる。

  • 登場人物への距離感の取り方が絶妙で、誰かを悪役に仕立てない
  • 業界内部の描写が具体的でリアル(ファンダム経済の解像度が高い)
  • 会話文の呼吸が良く、長編なのに読む手が止まらない

朝井リョウ作品をこの順で読むと効く、というのが個人的なおすすめ:

  1. 『正欲』(社会の”普通”を揺さぶられる)
  2. 『生殖記』(自分という生物の輪郭が歪む)
  3. 『イン・ザ・メガチャーチ』(他者と繋がった瞬間の自分を疑う)

キリュウの感想:読みながら、何度もスマホを裏返した

正直に言うと、読んでいる途中で何度もスマホを裏返した。自分のタイムラインを見るのが、少し怖くなったからだ。

僕(キリュウ)は、特定のアーティストやコンテンツにのめり込んできた自覚がある。その熱のおかげで救われた夜も確実にあった。だからこの小説は、”推し活”を断罪する本ではない、と強調しておきたい。朝井リョウは、推すことの尊さも、きちんと書いている。 ただ、その尊さが誰かに設計されうるという事実を、同じ温度で描いてしまうから怖いのだ。

個人的にいちばん刺さったのは、陽川絢子パート。ある”報道”以降の彼女の揺れ方は、”信じていたい自分”と”もう信じられない自分”のはざまで、読みながら胸が詰まった。推してきた時間=自分の人生の時間、だからこそ手放せない。あの感覚を文字で再現できるのは、本当にこの作家だけだと思う。

一方で、久保田慶彦パートは、“作り手側の倫理”の問題として読める。彼が何を選び、何を選ばなかったのかは、ぜひ本編で確かめてほしい。

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こんな人におすすめ

  • 推し活・ファンダムに、うっすら疲れや違和感を感じ始めている人
  • SNSで”界隈”の炎上を、他人事に感じきれない人
  • 『正欲』『生殖記』を読んで朝井リョウに信頼を置いている人
  • エンタメ業界・コンテンツビジネスに関わっている人
  • “信じる”という行為そのものを、一度立ち止まって考えたい人

逆に、スカッとする読後感や、明快な勧善懲悪を求める人には、少し重いかもしれない。読後の問いを抱えて歩ける人向けの一冊だ。


ネタバレなしの総評

  • ストーリー:★★★★☆
  • テーマの鋭さ:★★★★★
  • 文章・会話のリズム:★★★★★
  • 読後感:★★★★☆(重いが、後を引く良さ)
  • 15周年記念作としての重み:★★★★★

総合:★★★★★(4.7 / 5.0)

『イン・ザ・メガチャーチ』は、”推し”を持ったことのあるすべての現代人への、祝福であり、警鐘であり、鏡である。物語を消費している、と思っていた側が、いつの間にか物語の側になっている──その転倒の瞬間を、朝井リョウはまたしても文章で正確に掴んでみせた。

読み終わったあと、タイムラインを閉じて、一度だけ深呼吸してほしい。その数秒の沈黙こそが、この小説があなたに残してくれるいちばん大きなギフトだと思う。


よくある質問(FAQ)

Q. 『イン・ザ・メガチャーチ』にネタバレなしで読める? A. 本記事はネタバレなしで書いています。帯の引用と人物設定の範囲にとどめました。

Q. 朝井リョウ作品、初見でも大丈夫? A. 単独で読めます。ただし『正欲』『生殖記』を読んでいると、作家の問題意識の地層が見えてより刺さります。

Q. 推し活をしていない人でも楽しめる? A. むしろおすすめ。”界隈”の外側にいる人ほど、本作の射程の広さに驚くはずです。

Q. タイトルの”メガチャーチ”の意味は? A. 直訳は”巨大教会”。現代日本の”神なき信仰”としてのファンダムを重ねるメタファーとして機能しています。



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